この本とmezzoとの出会いは、中学の国語の時間のこと。
地元の図書館では「児童書」に分類されていました。
全部で100ページに満たない物語、13人の登場人物のモノローグで構成されています。
時折可愛らしいイラストカットも交えて進みます。
それじゃ、大人は物足りないのだろうか。
▶️いや、とんでもない!
本書、ポール・フライシュマン『種をまく人』は、子どもはもちろん、現代人仲間の大人たちにこそ示唆に富む内容でしょう。
mezzoにとっても、いまだに折につけて手に取りたくなる本です。
【こんな方におすすめ】
・しみじみ、温かい話を読みたい方。
・短く読みやすい本で気分転換したい方。
・元気が出る物語を読みたい方。
・隣人との人間関係が希薄なことが気がかりな方。
・周りの人とコミュニティ形成してつながってみたい方。
本の基本情報
あすなろ書房の公式サイトより、基本情報は以下のとおりです。
タイトル:種をまく人 著者 :ポール・フライシュマン 翻訳 :片岡しのぶ 出版社 :あすなろ書房 発売日 :1998年7月15日 初版
原題は”Seedfolks“、原語版は1997年の出版です。
2019年時点で26刷発売されています。
最近では『朝日新聞』2021年7月31日に書評の掲載もあります。
初版から実に20年以上、長い間読み継がれてきた本であることがわかります。
中学生の読書感想文の素材に選ばれることも、多いです👍
著者:ポール・フライシュマン
1952年、アメリカ・カリフォルニア州に生まれる。
作風は、『種をまく人』のカバー裏に次のようにありました。
歴史・音楽・自然科学を愛し、それらをテーマとする著作多数
ポール・フライシュマン『種をまく人』(あすなろ書房 1998年)カバー裏)
フライシュマンさんの公式サイトはこちら(英語のみ)
あらすじ
アメリカ、オハイオ州クリーヴランド。
五大湖の1つ、エリー湖のほとりのこの街は、春の訪れが遅い。
1980年代(「アミールの話」より推定)のある4月のこと。
さまざまな人種の住民がひしめき合って暮らす貧民街の空き地に、ヴェトナム人の少女が豆の種をまきます。
自分の生まれる前に亡くなった、農夫だった父親を思って。
「ここならものを捨ててもいいや」と言う気持ちの積み重ねで、壊れた家電が積み上がり生ごみの臭いの漂う、事実上のゴミだめとなってしまった空き地。
小さな豆の芽を大切に育てる少女がきっかけで、近隣の住民たちが一人、また一人と野菜や花を育て始めます。
故国の人間関係と切り離され、孤独と孤立の中にあった者が野菜を通じて再び生きる希望を取り戻す。
共に土をいじる姿に触れて隣人の境遇に関心を寄せ、やがて助け合おうとする者も出てきます。
緑の農地に生まれ変わったこの空き地には、収穫と共に豊潤な「コミュニティ」が生み出されていきます。
mezzoのメモ:コミュニティの再生
アメリカ五大湖地方でのコミュニティ再生の話…
「あの本」の話題に似てないか?
▶️「あの本」、そうです。
ブログで以前紹介した斎藤幸平『人新世の「資本論」』に、似た話が出てきました。
「脱成長コミュニズムの柱」の話題の中で、2013年に財政破綻に追い込まれたアメリカ・デトロイト市で、それでも街に止まった住民たちが都市農業でコミュニティ再生を果たす、という話が出てきました。
『人新世の「資本論」』の方はマルクス主義をヒントに今後の社会のあり方を考える本でした。
一方、『種をまく人』では、登場人物の全員が何かの理想や目的を持って畑づくりを始めた訳ではありません。
この人たちは、申し合わせて、あるいは高邁な精神によって畑づくりに取りかかった訳ではありません。それぞれ自分だけの理由で、種を蒔くことを思いついたのです。
けれども、やがてゴミは消え、そこにみずみずしい菜園が出現します。菜園づくりにかかわった人たちーー見ているだけだった人もふくめてーーは、それまで考えもしなかった事を考えました。そして菜園ができていく過程でちょうど蔓植物が蔓をのばすように、人びとの間に連帯感が生まれ、気がついてみるとこの人たちは「仲間」になっていました。
ポール・フライシュマン『種をまく人』(あすなろ書房 1998年)訳者あとがき)
コミュニティ形成など、何か大きな変化を実現しようとする際、実際住民の心を動かすのは、『種をまく人』で描かれているような「自分だけの理由」かもしれませんね。
他者への想像力
コミュニティ形成につながるためには、「自分だけの理由」が連鎖をし、他者への想像力につながっていってほしいもの。
インド人のアミールの話を紹介します。
空き地の菜園で知り合ったイタリア人の女性、実は昔アミールのお店でクレームをつけたお客だと言うことを思い出します。当時彼女はアミールを「ずるい外国人」だと罵ったのでした。
親しくなった今なら言っても大丈夫と判断、その時の話をするアミールに対し、彼女はこんな反応をします。
彼女は目をまんまるくしました。
そして、平謝りにあやまり、なんどもなんどもこう言いました。「あのときは、あなただとは知らなかったものだから……」
ポール・フライシュマン『種をまく人』(あすなろ書房 1998年)「アミールの話」)
知っている人が相手だと、度を越したクレームや差別的な言動をすることは少ないでしょう。
他者への想像力、同じく孤立や孤独が連日問題になっている現代社会でも、解決のキーとなるかもしれませんね。
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